箱庭療法で自分をつかむ① ~枯山水と庭造りの伝統から

箱庭療法は砂の入った箱に、用意された材料を置き、砂の形を作ってひとつの世界を造ることにより、自己把握をしたり心を静かな状態にしたりするための心理療法です。
箱庭療法は、もともとは心理学のユング派でドイツで生み出されたものですが、日本では心理学者の河合隼雄氏などによって独自の工夫がされ、日本独自の療法となっていきました。

大人のキャリア把握にも役立つ技法であり、箱庭療法用具を作っている神森堂社では、作成した写真を送付するとメールで示唆が得られるサービスなども行われています。

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こうした箱庭療法ですが、日本の伝統にも強く根付いています。
古くは日本神話にその一片が見られますし、平安時代の庭造りから、江戸時代の盆景の流行まで様々な局面があるのですが、その中でも最も想起しやすいものが、「禅寺の枯山水」だと思います。砂と石でできた枯山水の庭は、竜安寺石庭がその代表となって、日本人の原点のようなものとなってよく知られています。

こうした石庭は、禅宗と良く結びついて捉えられますが、枯山水庭園を確立したのが、禅僧である夢窓疎石(むそうそせき)国師です。
夢窓疎石国師は、室町時代初期の騒乱の時代に生まれた禅僧で、様々な宗派を遍歴した後に、そのころ盛んになってきていた禅宗の「自然なありようを真理そのものと見なす」という部分に深く共鳴していたようで、作庭した庭をはじめ、「夢中問答集」をはじめとした文書、漢詩などの詩など、様々な作品を残しています。

 

夢窓疎石国師は、庭造り、作庭を禅の修行そのものと捉えていたようで、それをうかがわせる詩や文書が多く残っています。
内容として「心を静かにし、理想的な自然の表れの庭を、自分の表れだと感じながら作ることによって自己を捉え自己を磨き、自分の中に本来眠っていた知恵が現れる」という趣旨が一貫しています。枯山水の庭を作ることにより自己との向かい合いと探求を続けた人生を生きていらっしゃいました。

 

夢窓疎石国師の生きた時代は、執権の北条氏が滅亡し、後醍醐天皇が天皇親政を開きすぐに衰微し、足利尊氏・足利直義兄弟が殺し合いの戦乱を起こすといった変転と戦乱の時代でしたが、こうした時代の中で、夢想疎石国師は北条氏からも、後醍醐天皇からも、足利兄弟からも一貫して大きな信頼と崇拝を受けています。

こうした、自己の表れ庭を作り自己に向き合うこと・それによって自己把握を行い、社会的にも活躍できるような知恵やありようをつかんでいく、ということは箱庭療法によって実現できるものの一つの理想のようにも思いますし、自分を捉え、磨くことを基盤に置いた日本文化の原点であると思います。

 

では、どのように庭を作り、どのような表れをどのような自己だと見なしたのか、どのように知恵を掴むのか、という具体的な点については、今後述べていくことができればと思います。

 

夢窓疎石国師 漢詩
「枯山水の庭をなぜ自分は作るのか」

徳の高い人は山の静けさを愛する
知恵に優れた人は自然の水の清さを楽しむ
私が庭造りにこだわるのはこれらを見習っている
ただその行為をもって自己を磨こうとするのである

(原文)
仁人は自から是れ山の静なるを愛す
智者は天然に水の清きを楽しむ
怪むこと莫れ愚惷の山水を翫ぶを
只だ此れを藉て精明を砺がんことを図るのみ

 

 

投稿者プロフィール

松井勇策 Matsui Yusaku
松井勇策 Matsui Yusaku
公認心理師・社労士・組織文化&心理研究者

深層心理学・文化人類学・宗教学などで明らかになる「太古の知恵」を実践的に、経営やキャリア構築に繋げる研究と発信をしています。
変化を増す社会が、人間本来の感性を大切にするものであって欲しい。

「易」の研究を30年以上行っていてライフワークにしています。

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フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所 代表
㈱リクルート 経営管理部リーダーを経て独立、東京都社会保険労務士会役員、産業ソーシャルワーカー協会 所属専門家等。WEBエンジニア・メディアデザイナーでもある。
名古屋大学法学部卒業、武蔵野大学大学院 人間学部にて心理学・宗教学等を研究中